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コラム:在外邦人と遺産分割

 海外に住んでいる人は、親族が亡くなって遺産分割が必要になるとき、話し合いの場に行けないので不安が多いのではないかと思います。

 

 私がアメリカにいたとき受けた相談は、「突然、日本の遠い親戚から「相続放棄の同意書」が送られてきて「署名して送り返してほしい」と言われたけれど、応じるべきでしょうか」というものでした。

 

 その時どう答えたか忘れましたが、今なら「相続財産がどれだけあるのか、財産をすべて金銭に換算した場合に自分が法定相続でもらえる金額はどれだけの見込みなのか、どんな事情で自分に放棄を求めているのか、などを聞いてから放棄しても遅くないですよ。現時点で財産の全容が分からないと言われたら、放棄せず話し合いに参加することもできます」と答えるでしょう。

 

   □   ■

 

 遺言なしで誰かが亡くなったら、残された相続人全員が合意して分割方法を決めなければ、財産の処分(亡くなった人の不動産の名義変更や預金の解約)ができません。海外に住んでいて話し合いに行けなくても、知らない間に勝手に遺産分割されてしまうことはなく、完成した「遺産分割協議書」に全員の実印(海外在住者なら署名)を押さなければ、遺産分割は完成しないのです。

 

 親族が裁判所に申し立てて遺産分割調停をしていたら、事情は少し変わります。もし海外にいる人が親族と音信不通にしていたら、行方不明者として扱われ、裁判所が代理人となる「不在者財産管理人」を選任し、その人が本人の代わりに協議に参加し、話し合いを進めることもあります。このときには、不在者財産管理人(弁護士等がなることが多い)は本人(不在者)の利益を守るために働くので、遺産分割の面では心配はないと思います。ただ、管理人の報酬は、不在者の相続財産から支払われることになります。

「不在者財産管理人」(裁判所サイトより)

http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_06_05/

 

 遺産分割協議には行けないけれど関わっていたい場合には、「自分はここにいて相続を受ける意思がある」ということを、親族なり裁判所なりに手紙などで意思表示して、書面や電話でやりとりをできるようにしておきます。そうすれば、当事者も裁判所も海外にいる相続人を無視して遺産分割することはできません。

 

 裁判所で遺産分割調停を進めていて、みんなの意見がまとまらず不成立になった場合には、今度は裁判所が「審判」(裁判と似たもの)によって強制的に遺産分割方法を決めてしまいます。この場合は原則として法定相続分に沿った分割となります。

 

 ですから、海外にいる人が直接話し合いの場に行けないからといって、いつまでも財産が分割できなくて困る、とか不在者に不利な分割がなされる、ということはなく、少なくとも親族が裁判所の制度を使って遺産分割協議を進めれば、それなりに法律に沿った結果で分割できるようになっています。

 

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 では、相続放棄をしたらどうなるか、ですが、相続放棄するとその人は「最初から相続人としていなかった」とみなされ、残りの人で遺産を分割します。だから、例えば相続人が母親と子3人だった場合、子の法定相続分は各自が6分の1です。ですが子が1人相続放棄すれば、残された子供は最初から2人だったとみなされるので、子の法定相続分は各自が4分の1に増えることになります。

 

 相続放棄は、財産を持っていた人(被相続人)が亡くなったことを知った日から3か月以内に「相続放棄の申述」をすることで、裁判所からその効力が認められます。

 

「相続放棄の申述」(裁判所サイトより)

http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_06_13/

 

 相続放棄はしないで、一応は遺産分割の話し合いに参加して、全体の財産が明らかになってから「私は財産はいらない」とか「私の相続権は兄弟の〇〇に譲る」といった意思表明をすることもできます。ただ、残された財産が負債である場合は「だれが借金を払うか」ということになりますから、その場で話し合いから抜けることは難しいかもしれません。一般的には、預金や土地といった財産より借金の方が多そうな場合は、相続放棄する人が多いです。

 

「遺産分割調停」(裁判所サイトより)

http://www.courts.go.jp/nagoya-f/saiban/tetuzuki/isan/riyou.html

 

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 複雑な問題や親族関係があって全体の話し合いの様子が分からないと判断できない、という場合は、日本の弁護士を代理人としてたてることもできます。

 

 最近、家庭裁判所では「電話会議・テレビ会議システム」を導入したので、遠隔地から調停に参加することもできます。代理人の弁護士もよくこれを利用していますので、交通費がかさむという悩みは減りました。ただ、本人が海外から参加できるかどうかは、裁判所に問い合わせてみなければわかりません。法律では「海外からの利用は不可能」と書かれているわけではないですが、実質的には現在「本人が電話会議を利用する場合は最寄りの裁判所に行って電話を受ける」か「弁護士が代理人となっている場合は、弁護士が弁護士事務所で電話を受ける」形で電話会議を行う運用となっているので、やはり海外に住んでいる人は、日本の弁護士に頼むしかないのかもしれません。

 

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◆家事事件手続法◆

(音声の送受信による通話の方法による手続)

第54条  家庭裁判所は、当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、家庭裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、家事審判の手続の期日における手続(証拠調べを除く。)を行うことができる。

 

(家事審判の手続の規定の準用等)

第258条  第41条から第43条までの規定は家事調停の手続における参加及び排除について、第44条の規定は家事調停の手続における受継について、第51条から第55条までの規定は家事調停の手続の期日について、第56条から第62条まで及び第64条の規定は家事調停の手続における事実の調査及び証拠調べについて、第65条の規定は家事調停の手続における子の意思の把握等について、第73条、第74条、第76条(第一項ただし書を除く。)、第77条及び第79条の規定は家事調停に関する審判について、第81条の規定は家事調停に関する審判以外の裁判について準用する。

 

◆家事事件手続規則◆

(音声の送受信による通話の方法による手続・法第54条関係)
第42条 家庭裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって家事審判の手続の期日における手続(証拠調べを除く。)を行うときは、家庭裁判所又は受命裁判官は、通話者及び通話先の場所の確認をしなければならない。

2 前項の手続を行ったときは、その旨及び通話先の電話番号を家事審判事件の記録上明らかにしなければならない。この場合においては、通話先の電話番号に加えてその場所を明らかにすることができる。

 

テレビ会議システム利用希望申出書(例) ※裁判所によって申出方法、可否の基準は異なります

http://www.courts.go.jp/asahikawa/vcms_lf/12denwakaigishisutemuriyoukiboumoushidesyo.pdf#search=%27%E8%A3%81%E5%88%A4%E6%89%80+%E9%9B%BB%E8%A9%B1%E4%BC%9A%E8%AD%B0%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0+%E6%89%8B%E5%BC%95%E3%81%8D%27