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アメリカに行きたいけど、ESTAでひっかかるかもしれません

よく、アメリカへ観光に行く予定の人が「犯歴があるとESTAで拒否される」と思ってしまい、「犯歴があるのですがESTA申請しないほうがいいですか」とか、「犯歴があるけど「ない」と言って申請したらどんなことが起こりますか」という質問がたまにあります。

 

ESTAのサイト

https://jp.usembassy.gov/ja/visas-ja/visa-waiver-program-ja/esta-information-ja/

 

私なりにちょっとこの問題を考えてみました。

 

□  ■

 

アメリカへビザなしで入国する人を対象としたオンライン事前登録制度「ESTA」には、以下のような質問項目があります(2020年1月現在)。

 

【適正性の質問】
質問2「あなたはこれまでに、他者あるいは政府当局に対して、所有物に甚大な損害を与えるか重大な危害を加えた結果、逮捕または有罪判決を受けたことがありますか?」

 

「質問2」は、ESTAの「適正性の質問」カテゴリーの中の9つの質問の中のひとつです。ほかには、以下のものがあります。


・精神疾患や薬物依存症かコレラ等の感染症があるか
・違法薬物に関する違反はあるか
・テロ、スパイ、破壊行為、虐殺などに関係しているか
・米国ビザの不正取得や不正入国に加担したことはあるか
・米国で求職中かはまたは米国で不許可就労をしていたことがあるか
・米国ビザを申請して不許可、または米国で入国拒否されたことはあるか
・米国で超過滞在(オーバーステイ)したことがあるか
・2011年3月1日以降、イラク、シリア、イラン、スーダン、リビア、ソマリア、イエメン、北朝鮮に渡航歴があるか

 

これらの質問にひとつでも「はい」と答えると、ESTAへの登録が承認されない傾向にある、というのが旅行会社の方々の見立てのようです。登録が不承認になると、総領事館へ面接に行って正規にビザを取得しなければアメリカへ入国できません。

 

「質問2」に当てはまるかもしれない、と思う人は、たとえば「20年前に窃盗犯で刑を受けたことがある」「2年前に車のスピード違反で罰金を払ったことがある」「1年前に酒酔い運転で反則金を払ったことがある」「痴漢行為で逮捕されたが不起訴になった」などという人だと思います。

 

【質問2の対象となる犯罪とは】

 

質問2を細かく分析します。

 

「あなたはこれまでに、他者あるいは政府当局に対して、所有物に甚大な損害を与えるか重大な危害を加えた結果、逮捕または有罪判決を受けたことがありますか?」(ESTA日本語版)


“Have you ever been arrested or convicted for a crime that resulted in serious damage to property, or serious harm to another person or government authority?”(ESTA原文)


あれ、これ、日本語版の訳が正確じゃないのでは…。

 

原文だけを見れば、以下のように解釈することもできます。


「あなたはこれまでに、財産に深刻な損害をもたらした罪や、他人または政府機関への深刻な害をもたらした罪で、逮捕または有罪判決を受けたことがありますか?」

 

この解釈だと、この質問が対象にしている罪は大きく分けて2つです。


1)財産を対象として深刻な損害を与えた罪
2)人や政府機関を対象として深刻な損害を与えた罪

 

1)は、窃盗、器物損壊、改ざん、放火、などでしょうか。
2)は、殺人、脅迫、暴力、詐欺、公務執行妨害、テロ、などでしょうか。

 

ちょっと、対象がはっきりしました。

 

【質問2の罪の重さの程度とは】

 

今度は罪の重さの程度を考えます。「深刻なserious」という言葉は、どんな程度の罪をいうのでしょうか。

 

少し調べましたがserious damageやserious harmの法的な定義を見つけることはできませんでした。

 

参考として、人の負傷の程度である「重傷(serious injury)」の裁判上の定義を紹介しているサイトはありましたので、引用して紹介します。

 

「死亡、体の一部の切断、著しい外観の損傷、骨折、胎児の喪失、体の内臓・部位・器官・機能の作用の永久的な喪失、体の組織又は一部の永久的な作用制限、傷害の発生した日から180日間のうち90日以上その人の日常的・習慣的活動を継続していくためのすべての実質的・物理的活動の実施を妨げるような一時的な傷害または減損があるとして医学的に定義された傷害―などをもたらす人的傷害を、重傷と定義する」

Serious injury is defined as “a personal injury which results in death; dismemberment; significant disfigurement; a fracture; loss of a fetus; permanent loss of use of a body organ, member, function or system; permanent consequential limitation of use of a body organ or member; significant limitation of use of a body function or system; or a medically determined injury or impairment of a non-permanent nature which prevents the injured person from performing substantially all of the material acts which constitute such person's usual and customary daily activities for not less than ninety days during the one hundred eighty days immediately following the occurrence of the injury or impairment.” Hyacinthe v. United States, 2009 U.S. Dist. LEXIS 108192 (E.D.N.Y. Nov. 19, 2009)

 

これで、人に対する「重大な危害」の程度が、少しはっきりしましたね。

 

もうひとつの判断基準となりうるのは、罪状に応じて課される「刑罰の重さの程度」です。


アメリカ合衆国法典には、刑罰のうち「重罪(felony)」と定義されているものがあります。基準は明確で、「1年以上の禁固刑」が重罪です。(18U.S.Code 3559条)

 

少なくとも、人に「重傷」を負わせたり、政府や財産に害を与えて1年以上の禁固刑を受けた人は、「質問2」に当てはまるのではないか、と推測できます。

 

【大昔の犯罪や、逮捕後に不起訴となった場合】

 

条文の分析を続けましょう。

 

「あなたはこれまでに」
これまでに、というのは現在と過去すべてにおいて、という意味です。20年前だろうと、50年前だろうとすべて含む、という意味です。

 

「逮捕または」
たとえ有罪でなくても、起訴すらされていなくても、逮捕歴だけでも当てはまることが、ここで分かります。厳しいですね。逮捕されて無罪だったとしても申告の義務があるのかな…。とにかく厳しいですね。

 

「有罪判決を受けたことがありますか?」
執行猶予の有無については書いていません。現在その刑が失効しているかどうかも聞いていません。つまり、過去に有罪判決を受けたという事実があるか、ということだけを聞いています。

 

【前科は消えるが、犯罪歴は消えない】

 

ところで、日本の刑法34条の2では、禁固刑の執行を終わって10年たつと「刑の言い渡しの効力」が失われます。罰金刑なら5年で「刑の言い渡しの効力」が失われます。また、執行猶予のついた判決を受けた人は、執行猶予期間が終わると「刑の言い渡しの効力」を失います(刑法27条)。これを法曹界の方々は「前科がなくなる」と表現しているようです。

 

うーん、「刑の言い渡しの効力」とは何なのでしょうか?

 

例えば、有罪判決を受けている人は、財団法人の理事や国家資格者になれないといった制限があります(欠格事由といいます)。それが、刑法34条の2等に定めた期間を過ぎれば、過去の刑の効果は消えて、そのような制限ができなくなる、ということを言っているのです。

 

これは、きちんと刑を終えたら新たに社会で再出発できるように、という更生の思想から生まれた制度なのだそうです。

 

犯罪の証明方法のひとつは、警察署の発給する「犯罪経歴証明書」です。この証明書は、刑法34条の2の「刑の消滅」やその他の政策に基づいて、犯歴の中から以下のものを「犯罪経歴を有しないものとみなす」ことにしています。(犯罪経歴証明書発給要綱第5条6号)

 

(1) 刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過しているとき。
(2) 禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を受け、罰金以上の刑に処せられられないで10年を経過しているとき。
(3) 罰金以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を受け、罰金以上の刑に処せられないで5年を経過しているとき。
(4) 恩赦法(昭和22年法律第20号)の規定により大赦若しくは特赦を受け、又は復権を得たとき。
(5) 道路交通法(昭和35年法律第105号)第125条第1項に規定する反則行為に該当する行為を行った場合であって、同条第2項各号のいずれにも該当しないとき。
(6) 少年法(昭和23年法律第168号)第60条の規定により刑の言渡しを受けなかったものとみなされたとき。
(7) 刑の言渡しを受けた後に当該刑が廃止されたとき。

 

元に戻って…。アメリカ政府の質問「有罪判決を受けたことがありますか?」は、判決の効力が今は無効になっていようが、恩赦されていようが、犯罪経歴証明書で「犯罪経歴なし」と書かれようが、過去の事実としてあったかどうか答えなさい、という意味を含んでいます。厳しいですね。

 

つまりは、証明できない過去の犯罪については、どんな申告をしようがアメリカ政府がその人の過去の犯歴情報を持っていたら、不許可にするぞ、ということです。

 

□   ■

 

では、アメリカ政府はどれくらい日本人の犯歴情報を持っているのか?と思いますよね。これは私も分かりません。政府のトップシークレットですからね。

 

ただ、入管の職員はウソをつく人には極めて厳しく処罰します。ウソかどうかを決めるのはアメリカ政府ですので、慎重に申請した方がよいとは思います。

 

「ESTA申請書に虚偽の申請をしESTAが許可され航空機に搭乗出来たとしても、米国の入国地で入国は拒否され、米国への入国は5年間禁止されることになります。」(ESTA「よくある質問」の回答より)


https://jp.usembassy.gov/ja/visas-ja/visa-waiver-program-ja/frequently-asked-questions-esta-ja/

 

アメリカ政府が外国人の違反容疑の記録を手に入れたら、半永久的に記録が残ると思っておいた方がいいと思います。私がよくお客様に話すのは、次のようなことです。

 

・今、本当にアメリカへ行く必要がありますか(観光ならほかの国の方がリスクが少ない)


・今回提出した記録は、一生アメリカに残りますよ(渡航歴、SNSアカウントを含めて多くの情報を取られ、それが将来どのようにして「容疑者」認定に使われるか分からない)

 

・もし犯歴を隠してうまくいったと思っても、旅行の当日まで「入国拒否にあうかも」と心配することになりますよ

 

・もし虚偽申請して入国拒否に遭ったら、たとえば数十年後にアメリカ出張などの必要が出てきたときにも、渡航不能になるかもしれませんよ(入管の記録は半永久的について回る可能性がある)

 

ESTAについて不安な要因がある人は、「不要不急な訪問は控える」というスタンスが安全ではないかな、と個人的には思っています。

 

それでも、どうしても行く必要がある人もいます。なので私の事務所では、アメリカ観光ビザ申請の支援をしています。

複雑な事情がなければ、オンライン申請書作成・面接予約・申請料支払い・提出資料の翻訳で行政書士報酬は5〜10万円程度(アメリカ総領事館へ払う17000円の申請料は含まない)です。書類をそろえたら、岡山の方なら大阪のアメリカ総領事館へ本人が直接面接に行かなければいけません。

 

□   ■

 

刑法第27条(猶予期間経過の効果)

刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。

 

刑法第34条の2(刑の消滅)

禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで十年を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。罰金以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで五年を経過したときも、同様とする。
刑の免除の言渡しを受けた者が、その言渡しが確定した後、罰金以上の刑に処せられないで二年を経過したときは、刑の免除の言渡しは、効力を失う。

 

道路交通法第125条 
この章において「反則行為」とは、前章の罪に当たる行為のうち別表第二の上欄に掲げるものであつて、車両等(重被牽けん引車以外の軽車両を除く。次項において同じ。)の運転者がしたものをいい、その種別は、政令で定める。
2 この章において「反則者」とは、反則行為をした者であつて、次の各号のいずれかに該当する者以外のものをいう。
一 当該反則行為に係る車両等に関し法令の規定による運転の免許を受けていない者(法令の規定により当該免許の効力が停止されている者を含み、第百七条の二の規定により国際運転免許証等で当該車両等を運転することができることとされている者を除く。)又は第八十五条第五項から第十項までの規定により当該反則行為に係る自動車を運転することができないこととされている者
二 当該反則行為をした場合において、酒に酔つた状態、第百十七条の二第三号に規定する状態又は身体に第百十七条の二の二第三号の政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態で車両等を運転していた者
三 当該反則行為をし、よつて交通事故を起こした者
 


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