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外国に帰化したら、日本のパスポートは使えませんか

 以前、「外国に帰化しているんですが、日本に帰るときは日本のパスポートを使っています。もうすぐパスポートの有効期限が切れるので日本の役所で更新手続きしたいのですが」とか、「外国に帰化したけど、日本のパスポートはまだ使えますか」という元日本人からの相談を受けたことがあります。
 

 原則としては、外国の国籍を取得した時点で日本国籍は失われるので、たとえ有効期限の残っている日本のパスポートを持っていても、それは無効のパスポートです。市役所の戸籍もなくなり、除籍されてしまいます。(帰化ではなく生まれながらの重国籍の人は、22歳までは重国籍を保持できます)


 ただ、海外に住む日本人、日系人にとって重国籍というのは重い問題で、日本国籍を失うことで日本の親族との行き来が難しくなったり(手続きが煩雑、長期間は滞在できない)、外国での身寄りがなくなったあとの日本帰国にも問題が出てきます(帰ろうとしても身元保証人がいないなど)。


 複数の国を行き来しながら暮らす人にとって、最後の住所地がどこになるかというのは分からないものです。日本に住んでいても、長年東京に住んだあと定年退職したら地方の実家に帰る人がいるのと同じです。  


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 国際的にも重国籍を認める国がある中で、日本でも重国籍を認めるべきだという主張は今も存在しますし、実は日本国も日系人に対してある程度緩やかに接してきた歴史があります。

 例えば、外国籍を取ったかどうかというのは自己申告されないかぎり、日本国は外国政府に対して調査しない(ほかの容疑で犯罪捜査している場合は別ですが)、というのは、積極的に重国籍者を取り締まらないという姿勢の表れです。

 なので、これまでは外国籍を取得しても、黙って日本のパスポートを使っていれば、空港をそのまま通過できました。もし外国籍を持っていると分かっても、日本の空港で上陸拒否する、つまり追い返してしまうなどしていました。日本の空港で逮捕することは、少なくともアメリカなど日系移民が多い国に帰化した人については、あまり聞かなかったように思います。

 ただ、ここ10年くらいでテロ対策として偽造パスポートの取り締まりが強化され、市町村でのパスポート取得時や、入国時の入管審査がやや厳しくなっているという噂を聞いていました。
 

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そんな今日このごろ、入管による在留特別許可の事例公表(平成28年3月)の中で、私はある事例を見つけました。

在留特別許可された事例
許可された在留資格「日本人の配偶者等」(3年)
在日期間32年、違反期間9か月(今次入国以降)、刑事処分なし

「自己の志望で外国籍を取得したことにより、日本国籍を喪失したもの。法の不知により日本国籍の喪失に気づかず、日本旅券を使用して入国したもの」に対し、「日本に生活基盤がある」ため特別に在留資格を許可しています。


 これだけでは事情がよく分かりません。でも、ひとつ分かるのは、入管がこの事例を在留特別許可の事例として挙げたということです。私はこの事例から、「他国に帰化して日本国籍を失った人に対しても、結構積極的に違反審査しているんだよ」というメッセージを受け取りました。 


 外交や国際問題というのは、時代によって刻々と変化します。在外日本人の地位や、日系人への配慮、重国籍に対する政府の考え方も変わっていきます。在外日本人、日系人の方々は、この変化を注意深く見ていてほしいと思います。


在特手続き中、働けますか

 妻が日本人、夫が外国人で在留特別許可の審査中であるというご夫婦から相談を受けました。ほかにも悩んでいる人がいるかもしれませんので、ここに書いておきます。

 夫は不法滞在し、不法就労して妻との生活を支えていましたが、日本人と結婚していることだし在留特別許可を受けて在留資格(日本人の配偶者等)をもらいたいと入管へ出頭しました。入管職員から「不法就労になるから審査中は仕事をやめるように」と言われ、夫は仕事をやめました。ところが生活に困ってどうしようもないので、入管に窮状を訴えて働いてもいいか聞いてみたい、というのです。審査は長ければ1年かかることもあり、この先どうなるのかと不安になっているようでした。夫婦はネット上で、こんな情報も見つけていました。「たとえ在留特別許可の審査中で就労を禁止されていても、働くことで夫としての役割を果たしているのだから、入管は実質的には夫の就労を悪くは評価しないようだ」。これは本当でしょうか。

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 結論からいえば入管は、就労できる在留資格のない外国人が働くこと(不法就労)を自ら認めることはありません。不法就労こそ入管が最も厳しい態度で取り締まっている罪だからです。

 生活に困っているのだから考慮してくれてもよいのではないか、という考え方がご夫婦にはあったのだと思います。その思いのさらに根底には、「日本人と結婚していさえすれば、まず在留資格が当然もらえるだろう。だからその間までのちょっとの期間ぐらい、大目にみてほしい」という考えがあったのだと思います。ここが入管との大きな意識の違いになっているのだと思います。

 在留特別許可を待っている人というのは、基本的には法律違反状態のままであり、入管に拘束されて退去強制処分の手続きを受けているということを覚えておかなければいけません。収容されていないのは、たまたま仮放免してもらっているだけなのです。常に違反審査は「国外退去させる」というゴールに向かって真っすぐに進められています。

 そんな中で、法律違反者ではありながらも(1)過去の違反を告白&反省し、(2)二度と法令違反をしないと誓い、(3)その人が日本にいることがほかの日本人に利益になる、と判断されたとき、初めて日本にとどまることを「特別に」許してもらえます(ほかにも様々な審査基準があります)。この条件に当てはまる人物なのかどうか、入管は審査期間中もじっと見ているのです。

 「働いてはいけない」と言われて、それをきちんと守れるのかどうかも、審査のうちだと思っていいでしょう。「生活に困っているんだから、法律には少々目をつぶって働かせてほしい」という考え方は、「法律を守ろうという意識が低い=気軽に法律違反を犯してしまう可能性が高い」と評価されます。

 夫が働けないなら合法的に働ける妻がお金を稼ぎ、親族にお金を借りてでも、夫が法律違反せず生活していけるよう努力する。この姿勢こそ、入管が求めている夫婦の姿だと思うのです。そしてこれが「法律を守って生活していく」ことの証(あかし)になるのです。

 中にはこっそり不法就労を続けて生活を維持しながら、何とか在留特別許可が取れた人がいるのかもしれません。また入管職員の中にそれを「黙認」していた人はいたかもしれません。でもそれは個別の特殊なケースであって、どの人にも当てはまることではありません。不法就労への取り締まりは昔よりさらに厳しくなっています。昔話や誰かの武勇伝を真に受けて真似をするのは、あまりにも危険な賭けだと思います。

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 入管のHPにもこの質問への答えが載っていましたので転載しておきます。

(出頭申告)

Q1    在留期限を超えて不法残留していますが,入管局に出頭して今後も引き続き日本での生活を求める手続を行っていますので,法律的には何の問題も無くなったのでしょうか。

A    出頭申告された方の中には「入管局に不法残留等を申告したので,法律的には何の問題もなくなった。法違反の状態は解消された。」と誤解される方が多いようです。

    入管局に外国人の方が出頭申告しても,直ちに不法残留等の状態が解消されたわけではなく,法務大臣から特別に在留が認められない限り,入管法に違反している状態に変わりはないということです。
    したがって,法務大臣の判断がくだされるまでは,原則的には,就労も認められていませんので,働いている工場や会社などで入管法違反により摘発されることもあります。

 


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