偽装結婚って何ですか(偽装在留と取締法)
普通の結婚と「(逮捕される)偽装結婚」の境界はどこにあるのか、政略結婚はなぜ逮捕されないのか、財産目当ての結婚はなぜ逮捕されないのか。私はまだ、はっきりとは分かっていません。
そもそも何が「本当の結婚」なのか、定義は不明確です。夫婦の義務について民法752条で は「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」とあります。法律上、愛は必要な要件ではありません(笑)。この条文について具体的な基準はありませんし、守っていないからといって結婚が無効になることはありません。
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事例を見てみると、偽装結婚は、そのものズバリの罪名があるわけではありません。政府の文書によると、こんな記述があります。
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○刑法
a.公正証書原本不実記載、同行使(第157条、第158条)
外国人を日本国内で就労させるための偽装結婚については、公正証書原本不実記載、同行使の罪で検挙している。
(日本政府の市民的及び政治的権利に関する国際規約第40条1(b)に基づく第3回報告 II 規約の各条に対する逐条報告 第2章3.外国人の地位、権利)
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つまり、外国人の場合は、うその結婚なのに婚姻届を書いて出したことが「事実でない記載」であるとされ摘発されるのです。そのとき客観的に「うその結婚」だと言える証拠がなければ逮捕はできないでしょう。その証拠とは何でしょうか。
報道を見ていると、「金銭の授受」があったことが明確な証拠のひとつとなるようだ、というのは分かりました。よく日本人が結婚紹介業者へ仲介料を払いますが、これは200万円でも300万円でも違法とはされません。外国人が(偽装結婚の仲介を依頼して)金を払う、あるいは日本人が外国人や仲介人から金を受け取る場合に証拠となるようです。
あと、組織的に反復して行われていること。入管は結婚仲介者を注意深くチェックしています。
さらに、結婚を偽装しているけど実際には別居し、就労しているという場合。単に結婚後働いている場合には見分けがつきませんが、例えば外国人だけ都市部へ行き働いているというのは極めてグレーであり、警察が動かなくても入管が入管法違反で捜査します。
就労に限らず、何か他の犯罪のために偽装結婚が使われている場合には、「結婚自体が本来の目的ではなかった」とみなされる余地があります。
以上の要因を複合的に見て、結婚の目的が「結婚以外の違法な行為のためである」と客観的に判断されたとき、逮捕に踏み切るようです。
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こういう傾向から、入管が国際結婚した人の入国・在留審査をするとき慎重に審査するケースとは、次のような外国人になります。
・数か月単位で何度も短期ビザでの出入国を繰り返していた人(不法就労の疑いを持たれる場合あり)
・過去に入管違反歴のある人
・入管に怪しい人物として目をつけられている仲介業者が紹介した人
・入管に怪しい人物として目をつけられている人(行政書士など)が申請取次した人
・過去において不自然に在留資格やビザを変えている人
・最初に会ってからすぐ(数日などで)結婚した人
・大量に偽装結婚が発生している国(地域)出身の人(今はないけど、過去にはありました)
日本人に関しては、次のような人が慎重に審査されます。
・結婚生活のための基盤が安定していない人(住む場所、収入、資産など)
ほかにもいろいろありますが、あとはぜひ相談に来てください(^^;)。
入管専門の行政書士は、こういう慎重に審査されるケースについて、最初からきちんと疑いがないということを証明する申請書を作ります。でも、黒を白にすることはできません(やりません、というべきか)。私ができることは、「グレーに見える白を、できるだけ白くすること」です。
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あと、上で引用した国際人権規約に対する日本政府の報告書ですが、読むと外国人の人権についていろいろ法的な立場を説明してあり、勉強になりました。参考までに、下へ抜粋しておきます。
外務省のサイトでも読めます。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/index.html
★日本政府の市民的及び政治的権利に関する国際規約第40条1(b)に基づく第3回報告
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/pdfs/40_1b_3.pdf
II 規約の各条に対する逐条報告
第2章
3.外国人の地位、権利
外国人の権利については、基本的人権尊重及び国際協調主義を基本理念とする憲法の精神に照らし、参政権等性質上日本国民のみを対象としている権利を除き、基本的人権の享有は保障され、内国民待遇は確保されている。
○刑法
a.公正証書原本不実記載、同行使(第157条、第158条)
外国人を日本国内で就労させるための偽装結婚については、公正証書原本不実記載、同行使の罪で検挙している。
b.私文書偽造、同行使(第159条、第161条)及び公文書偽造、同行使(第155条、第158条)
外国人を日本国内で就労させるためのパスポートの偽造に関しては、私文書偽造、同行使罪で、在留資格変更のための国立大学等の入学許可証、在学証明書等の偽造に関しては、公文書偽造、同行使の罪で検挙している。
a.b.ともに、ブローカー等が関与している場合は、直接実行行為を行っていなくても、第60条(共同正犯)又は第61条(教唆犯)を適用して積極的に検挙している。
★市民的及び政治的権利に関する国際規約第40条1(b)に基づく第4回報告
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/2c1_002.html
II 規約の各条に関する逐条報告
第2章外国人問題
(c)社会保障
我が国の社会保障制度は、1981年に「難民の地位に関する条約」に加入したこともあり、我が国に適法に滞在する外国人については、基本的には内外人平等の原則に立って適用されることとしている。
(i)公的医療保険、公的年金
我が国において、一定の事業所で常用的雇用関係にある外国人については、我が国の国民同様、健康保険・厚生年金保険などの公的な職域医療保険・年金に加入することになる。また、それ以外の者であって我が国に住所を有すると認められる者については、国民健康保険・国民年金の適用対象となる。
(ii)生活保護
生活保護は、生活に困窮する日本国民に対し、健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長する制度である。但し、永住者等については予算措置として法を準用し、日本国民と同様の要件の下で同様の給付が行われている。
★市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)
第40条
1 この規約の締約国は、(a)当該締約国についてこの規約が効力を生ずる時から一年以内に、(b)その後は委員会が要請するときに、この規約において認められる権利の実現のためにとった措置及びこれらの権利の享受についてもたらされた進歩に関する報告を提出することを約束する。
- 2010.11.11 Thursday
- 国際結婚
- 01:14
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- by まつだ国際法務オフィス